『元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略』を読んでみたのだが、なかなか興味深い内容だったので書評なんぞを。
もともと宝塚に興味はなかったし、"ベルばら"とか、女性が男性を演じる男役とか、派手な衣装・濃いメイク・大げさな演技とか、正直あまりいい印象は持っていなかった。まぁ、宝塚を実際に観たことのない男性が抱く印象としては普通だと思う。ところが、数年前からハマっている日本のシンフォニックメタルバンドLIV MOONのリードボーカルを務めてるAKANE LIVが宝塚出身(宝塚時代の芸名は神月茜)ということで、がぜん興味を持つようになった。何冊か宝塚関連の本も読んでみたのだが、本書は宝塚出身の女優さんでもファンでもない、宝塚の経営メンバーが書いているという異色の本だ。
LIV (通常盤)
AKANE LIV
さて、その宝塚とはどんなものかというと、兵庫県宝塚市に本拠地を置く、独身女性のみで構成される日本で最大規模を誇る(約400名)劇団(宝塚歌劇団)ということになる。1914年、阪急電鉄の旅客誘致を目的に宝塚新温泉の余興として始まったのが事業のスタートで、当初は歌劇団自体で利益をあげる必要はなかったとか。すでに100年を越える歴史を持ち、現在では阪急グループの収益の3本柱の一つに成長しているという。演劇は儲からないとよく聞くが、宝塚は儲かっているわけだ。本書には、儲かっている宝塚のマーケティング・経営戦略が書かれている。
以下、宝塚の戦略の肝というべき点を抜粋する。
- 創って作って売る(垂直統合システム)
事業の垂直統合というと自動車産業や家電産業で聞く言葉だが、宝塚はエンターテイメントの世界でこれを実現しているという。- 宝塚歌劇団:作品制作(企画・脚本ほか)
- 株式会社宝塚舞台:大道具・小道具・衣装作成ほか
- 阪急電鉄株式会社歌劇事業部:広報宣伝・チケット販売ほか
これらすべてが本拠地である宝塚市に集中して置かれ、事業の効率化を実現している - シロウトの神格化
宝塚音楽学校を卒業し、歌劇団に入団したばかりの生徒はまだ未完成の状態(つまりシロウト)。この未完成の生徒をファンコミュニティが支え・見守りながら、トップスターまでの長い道のりを共に成長していくプロセスを「シロウトの神格化」と呼ぶ。
宝塚には、入団した生徒がトップスターに至るまでに越えなければいけない独自のステップが設けられている。このステップをファンもよく理解しており、自分が贔屓にしている生徒がこのステップを越える・越えないというのを一喜一憂しながら、その成長と卒業までを見守ることになる。
本書の後半では、宝塚とAKB48との比較が行われているが、「シロウトの神格化」という戦略をとっている点はほぼ同じと言っていい。秋元康がAKB48を作る際に宝塚を参考にしたのは、まず間違いないと思われる。怒られるのを覚悟で言えば、宝塚の戦略を模倣して大成功を収めたのがAKB48ということになる。
「シロウトの神格化」という戦略は、近年よく聞く「ストーリーを売る」「コンテンツよりもコンテクスト」といったキーワードとも符合する。エンターテイメント以外のビジネスにも十分応用可能な戦略であるし、ほかにも興味深い内容が多く含まれているので、ぜひ一読をお勧めする。
Kindle版
元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略 (角川oneテーマ21)
森下 信雄
元・宝塚総支配人が語る「タカラヅカ」の経営戦略 (角川oneテーマ21)
森下 信雄
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