フランクフルト・ブックフェアは、毎年10月にドイツのフランクフルト・メッセで開催される世界最大のブックフェアだ。世界中の出版社が一同に集い、版権売買をはじめ、さまざまな情報交換などを行っている。
昨年は例のドタバタ騒ぎ(嘉平、編集やめるってよ)の影響で参加できなかったが、今年はドワンゴから参加できたので簡単なレポートをまとめておきたい。
二年ぶりにフランクフルト・ブックフェアに参加してなにより驚いたのが、ブックフェアの規模が縮小していたこと。アスキーに入って以来20年以上フランクフルトにかよっているが、ブックフェアの規模が縮小したのは初めてだ。正直、これには衝撃を受けた。IT関連の老舗の出版社も軒並みブースを縮小しているし、中にはブースを持つことをやめてしまった出版社まである。
最近では、出版市場の縮小が続いているのは日本だけで海外では持ち直している、あるいは成長しているといった報道も見受けられるが、フランクフルト・ブックフェアの現状を見、そして海外出版社の版権担当者と話し合った限りでは、相当厳しい状況が続いていると思われる。日本はさらに厳しい状況にあるわけで、暗澹たる気持ちになった。
そのような中で気を吐いているのが、台湾を含む中国系出版社だ。二年前よりもさらにブースの規模を拡大しており、存在感が増している。日本のブースが年々存在感が薄れていくのと好対照だ。
私がミーティングを持った出版社から、いくつかブースを紹介しておこう。
ホール全体はこんな感じで、各社のブースを訪れてはミーティングを繰り返すことになる。IT関連の出版社はホール4と6に集まっていたので、会期中はこの2つのホールを行ったり来たりしていた。
Elsevierは学術系の出版社で、コンピュータサイエンス、数学などの良書をだしている。版権担当者が中国人に変わり、さらに北京に版権部門を移動したと聞いてびっくり。なんでも中国の版権購入数はものすごい勢いで増加しているそうで、日本なんか話にならないらしい。今でこそ日本人がノーベル賞を取ったとかいって喜んでいられるけど、10年後にはひっくりかえっているんじゃないだろうか。
IT関連出版社の老舗の1つであるWiley。ここはIT関連では、唯一大型のブースを出していた。
こちらも老舗のPearson。実にこじんまりとしたブースで、びっくり。世界に冠たるメディア・コングロマリットのブースには見えない。IT関連としては、Addison-WesleyやPrentice-Hallなどを要する重要な出版社だけにちょっと気になる。
O'Reillyはいつもと変わらず。
No Starchは、サンフランシスコにあるIT専門の独立系出版社だ。十数年前に英語圏で大手出版社による中小IT系技術出版社の買収合戦があったのだが、No Starchはどこにも買収されることなく、独立を保った数少ない出版社の1つだ。フランクフルト・ブックフェアには、いつも社長のポロックが自らやってきて今後の刊行予定について説明してくれる。ポロックが「我々は他社が作るような本は作らない。No Starchは、他社が決して出さないユニークな本を作る」と言い切っているように、No Starchの本はユニークなものが多い。
常に優しい微笑みを絶やさず、穏やかに語るポロックだが、一本筋の通った気概ある出版人だ。これからの時代は、No Starchのような特長のある小出版社こそが輝くのではないかと思うので、がんばってほしい。
Packtは2004年にイギリスで創業したIT専門の新興出版社だ。創業者のDavid Macleanは、出版人というよりはベンチャー起業家というべき人物で、Packt以前にWroxという出版社を起業し、これをWileyに売却した後にPacktを創業している。
Packtは出版社としては特異で、書籍を印刷・製本して倉庫に在庫し、これを書店に流通させて販売するという一般的なビジネスを行っていない。Webサイトに書籍のカタログを掲載し、読者から注文が入るとオンデマンド印刷で注文された数だけ印刷・製本して、これを郵送するという直接販売のみのビジネスを行っている。現在は、オンデマンド印刷で制作する紙の本に加えて電子書籍の販売も行っているし、Amazonには本を卸すようになっているようだ。
また、マネージメント部門はイギリスにあるものの、編集・レイアウトなどを行う部門はインドに置いてコストダウンを図っているのも特徴的だ。通常の出版社にとって、編集部門を言語の違う海外に置くなどというのは考えられないことだ。
独自のビジネス展開によって、Packtは創業以来成長を続けている。注目すべき出版社の1つだと思う。
5日間の開催日のうち、土曜日と日曜日は一般公開されるため、会場を訪れる人が一気に増える。また、多くの若者達が会場の中庭のようなところでコスプレを行っている。この賑やかさは例年どおりで、お祭りとしてはまだまだ人気があるようだ。
今年のフランクフルトは気温が低く(最高気温が4度とか)、5日間のうちほとんどが雨、雨がやんでいてもどんよりと曇っているというあいにくの天候だったので観光らしい観光もしなかった。出版ビジネスの将来を考えると不安も多いが、来年はもう少し明るい話題の多いブックフェアになることを祈って、レポートを終わりたい。
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